朝、英語の先生と顔を合わせた子どもから、元気な「Hello!」が聞こえてくる。先生が「Good morning!」と返すと、子どもは表情や場面から、朝に交わす言葉なのだと少しずつ感じ取っていきます。
元総社幼稚園では、英語を決められた時間だけの「勉強」にしていません。挨拶や遊び、先生との会話、野菜の栽培や園外活動など、毎日の園生活に英語がなじむ環境をつくっています。
「Hello!」が自然に出るのは、たくさん暗記したからではありません。英語を使いたくなる人と場面が、子どもたちの日常にあるからです。
今回は、元総社幼稚園の園長先生と英語の先生に、子どもたちから英語が自然に出る理由や、日々の活動で大切にしていることを聞きました。
この記事の要点
・英語をすぐ日本語に訳さず、場面や表情から意味をつかむ
・間違いを強く否定せず、声に出す意欲を守る
・先生との会話だけでなく、子ども同士でも英語が広がる
・遊びや自然体験と結び付くことで、英語が記憶に残る
・園で生まれた興味が家庭へ続き、親子の会話にもつながる
元総社幼稚園が英語を特別な「勉強」にしない考え方については、前回の記事「英語を『勉強』にしない理由」でも詳しく紹介しています。
「Hello!」が自然に出るのは、英語が日常にあるから
英語活動で習った言葉を、活動の時間だけに使って終わりにしてしまえば、英語は子どもにとって「その時間に答えるもの」になりやすくなります。
元総社幼稚園では、英語の先生が課外英語を担当するだけでなく、午前中にクラスへ入ったり、園内で子どもたちと挨拶を交わしたりします。園庭で遊んでいるときや廊下ですれ違ったときにも、子どもが知っている言葉を試せる相手がいます。
英語の先生が着任してまだ数カ月の時点でも、子どもたちから「Hi!」「Hello!」と声をかける姿が見られるようになりました。毎日の短いやり取りが積み重なり、英語を話すことへの抵抗が少しずつ小さくなっているのです。
英語を自然に使えるようになるために必要なのは、正解を言う練習だけではなく、言ってみたくなる関係と環境です。
日本語に訳す前に、子ども自身が意味を見つける
園長先生が大切にしているのは、言葉に対する「体験的な意味付け」です。英語の意味を日本語で説明して覚えさせるのではなく、その言葉が使われる場面、先生の表情や動き、目の前にある物から、子ども自身が意味を結び付けていきます。
英語の先生も、活動中に何でもすぐ日本語へ置き換えることはしません。絵や実物、ジェスチャーで伝えられるときは、子どもたちが見て、触れて、聞いて、考える時間を大切にします。どうしても表現しにくい場合に限って、日本語で補います。
これは、幼い子どもが日本語を覚えていく過程にも似ています。初めから言葉の定義を教わるのではなく、身近な人が話す言葉と物や出来事を何度も結び付けながら、意味をつかんでいくからです。
英語を日本語に変換してから理解するのではなく、英語の音と体験を直接結び付ける。その積み重ねが、場面に合った言葉を自然に引き出しやすくします。
間違いを恐れない空気が、最初のひと言を生む
子どもが英語を口にするとき、最初からいつも正しい単語や発音になるとは限りません。知っている言葉と別の言葉を取り違えることもあります。
そんなとき、英語の先生は間違いを強く指摘したり、発言そのものを否定したりしません。子どもと一緒に笑いながら自然な表現を返し、気持ちを次へ切り替えます。子どもたちも「間違えたら恥ずかしい」ではなく、「あれ、何だったかな。もう一度やってみよう」と受け止められます。
園長先生も、正しさを先に求めすぎると、子どもが声を出しにくくなると考えています。まずは話してみること。相手に伝えようとすること。その挑戦を受け止める空気があるからこそ、最初の「Hello!」が出てきます。
これは英語の力だけの話ではありません。失敗を恐れず、自分から一歩を踏み出す勇気を育てることにもつながっています。
言葉と動きをセットにすると、英語が体に残る

幼児期の子どもにとって、英語の音だけを繰り返す活動は、集中しにくいことがあります。そこで英語の先生は、言葉と体の動きを組み合わせています。
たとえば、挑戦したい人を募るときの「I want to try!」。子どもたちは決まった動きを添えながら発音します。言葉と動きが一緒に記憶されるため、先生が促さなくても、挑戦したい場面で自然にフレーズが出やすくなります。
「Thank you!」などの言葉も、人から何かを受け取る動作や、先生とのやり取りの中で繰り返します。単語だけを切り離して覚えるのではなく、「この場面で使う言葉」として身に付けていくのです。
覚えた英語は、子どもから子どもへ広がっていく

英語が園生活になじみ始めると、その広がりは先生と子どもの間だけにとどまりません。
あるクラスで年長児が覚えた動きやフレーズを別の活動で使うと、それを見た年中児や年少児がまねをします。課外英語の子どもたちが英語の歌を歌い始めると、近くにいたほかの子どもたちも「何をしているの?」と興味を持って集まってきます。
年齢の異なる子どもが一緒に学ぶ場面では、年長児が年少児を助ける姿もあります。年齢や発達に応じて、年少児は数字を一語で言えたら十分、年長児には文章での表現を促すなど、一人ひとりが今できるところから参加します。
知っている子が教え、興味を持った子がまねをする。英語が子ども同士の遊びや関わりを通して園内へ広がることで、活動に参加していない時間にも英語に触れる機会が生まれます。
野菜や自然との出会いが、使いたい言葉を増やす

子どもがよく口にするのは、自分の好きな物や、心が動いた体験に関する言葉です。元総社幼稚園では、身近な自然や園生活の活動も英語と結び付いています。
英語の先生が着任した頃、子どもたちは一緒に野菜を植えました。すべての野菜の名前を一度に覚えたわけではありません。それでも、自分が気に入った言葉を一つ覚え、先生と廊下ですれ違うたびに、うれしそうに「Tomato!」と伝える子がいました。
作業中に先生がかけた「One, two, one, two」という掛け声も、子どもたちの中に残りました。先生がその場にいないときでも、友だちと物を運びながら同じリズムを口にするようになったそうです。
英語のカリキュラムも、色や形、園や家庭で使う物、家族、動物、自然、町にある施設など、子どもの身近な世界から少しずつ広がるように組み立てられています。知っている物だからこそ、「これは英語で何と言うの?」という好奇心が生まれます。
英語を覚えるために体験するのではなく、心が動く体験の中に英語がある。それが、子どもから「もっと知りたい」「言ってみたい」を引き出します。
園で生まれた興味が、家庭での発見へつながる
英語活動は、園の中だけで完結するものではありません。子どもが園で関心を持ったことが、家庭での会話や発見へ続くことがあります。
町にある施設をテーマにした活動で「post office」に触れた後、子どもたちは身近なポストにも注目するようになりました。「四角いポストがある」「丸い形もある」「色が違うものもある」と家族と一緒に探し、保護者が写真を園へ送ってくれたこともあったそうです。
これは、英単語を覚えたかどうかを家庭で確認する「宿題」ではありません。園で始まった好奇心の続きを、親子で楽しんでいる姿です。
園長先生は、園から活動内容を一方的に報告するだけではなく、家庭での子どもの反応も受け取りながら、学びを深め合える関係をつくりたいと考えています。
よくある質問
英語活動では、単語や文法を覚えさせるのですか?
単語や表現にも触れますが、暗記や正解だけを目的にはしていません。絵、実物、歌、ジェスチャー、遊び、自然体験などを通して、英語の音と意味を子ども自身が結び付けることを大切にしています。
英語を習った経験がない子でも参加できますか?
はい。初めから上手に話すことを求めるのではなく、見て、聞いて、まねをするところから始めます。一人ひとりの年齢や理解に合わせ、今できる表現を引き出していきます。
子どもが間違った英語を言ったときは、どうしますか?
その場で強く否定するのではなく、伝えようとした気持ちを受け止めたうえで、先生が自然な言葉を返します。間違いを恥ずかしい経験にせず、もう一度話してみようと思える雰囲気を守ります。
家庭でも英語を使わせた方がよいですか?
無理に言わせたり、覚えているかを試したりする必要はありません。子どもが園で知った言葉を口にしたときに一緒に楽しみ、「それは何?」「どこで知ったの?」と興味を受け止めることが、学びの続きを支えます。
元総社幼稚園の課外英語は、どのように行われていますか?
課外英語の「ポプラショートクラス」は、外国人専任講師のもと、月曜日から金曜日まで1日40分行われています。詳細は元総社幼稚園の課外英語(ポプラショートクラス)をご確認ください。
元総社幼稚園では、令和9年度(2027年度)予定 で「英語専科クラス(ポプラ英語クラス)」ができます。
まとめ|英語が自然に出る環境は、挑戦する心も育てる
元総社幼稚園の子どもたちから「Hello!」が自然に出る背景には、毎日の短い挨拶、先生との関係、間違いを否定しない雰囲気、歌や動き、自然体験、子ども同士のまねと学び合いがあります。
目指しているのは、覚えた英語の数だけを増やすことではありません。知らない言葉にも興味を持ち、間違いを恐れず、自分から伝えてみようとすること。その小さな挑戦の積み重ねです。
英語が特別な「勉強」ではなく、人や世界とつながるための身近な言葉になるように。元総社幼稚園は、子どもたちが楽しみながら英語に親しめる環境を、園生活の中で育てています。
元総社幼稚園の教育をもっと知りたい方へ
元総社幼稚園では、英語教育だけを切り離すのではなく、遊びや自然、人との関わりを通した育ちを大切にしています。
英語の活動で見られる子どもたちの姿も、園が大切にしている「自分から関わり、やってみようとする力」の表れです。日々の保育や行事、自然体験の中にも、子どもの興味や発見を学びへとつなげる工夫があります。
MOTOYO MAGAZINEでは、園長先生や先生方の言葉を通して、元総社幼稚園が大切にしている教育の考え方や、子どもたちの日々の成長をお伝えしています。ほかの記事も、ぜひあわせてご覧ください。
