前編に続き、元総社幼稚園は教育保育方針の5本の柱のうち、最も重視するものの一つに「あそびを中心とした学びを重視する保育について、後編をお届けします。
目次
物事は重なり合っている
(前号よりつづく)
視野を広げて子どもたちのいろいろな行動を見ていくうちに主体性を伸ばしていくヒントがたくさんある事に気付きます。保育者が直接関わりことも大事ですが、子ども自身や子どもたち同士が関わり合いの中で意味付け合う事や間接的な相互作用はすごく重要で保育の大きな推進力となります。
Q. 相互作用ですか。
ーー物事って重層的というか、重なり合っていると思うんです、いろんなことが。そこを読める保育。だから保育って本当にクリエイティブな仕事ではないかと思っていますし、そういう重層的な深いところの「パースペクティブ=奥行き」を見られる、平面だけではなくて奥行きが見られる形の保育が大事だと思います。でもそうなるのはとても難しいと思います。ある一点が、点と点になって、線になって面になって立体的になって奥行きができ、それを見られるようになるわけですから。
ハイブリッド保育とは
Q. 「遊びを中心とした保育」といっても、現代はゲームや動画など、遊びも変化していますか?
ーー他園の保育を見ても、結構伝統的な遊びをやっているところも多いですね。当園も伝統的な砂遊びなどやりますが、今の子ども達はYouTubeを見て、真似をする子も多いですね。今の買い物ごっこってどうなんだろう。もしかしたらスマホの中でバーチャルで買い物をするのが今の子ども達だったら、それをどう表現するのか、その時代の子ども達の「今」を私は遊びに反映してもいいのではないかなと思います。まさに子どもたちの今っていうのは変わってきてると実感しています。
Q. ICTも、日々の活動に組み込んでいますか?
ーーそうですね。「ハイブリッド保育」みたいなことを。
Q.「ハイブリッド保育」とはどういうことですか?
ーー要するに、ICTを使っていくものとそうでないところのバランスを取っていく。保育は人が関わらなければいけない部分は多いし、そこはもう変わらないし、外せないところです。ICTは、コンピュータ、タブレットなどを使って、バーチャルでやっていくとか、保育参観もZoomを使ってやったりとか、できるのもあります。そういう意味であえて保育の中で棲み分けをしてくというふうに考えていくならばハイブリッドな保育は可能です。
当園でも、今年の運動会は新型コロナの感染防止のために、保護者の参加はなく、ライブ配信で行いました。3台のカメラを使って適宜カメラワークを切り替えて、後日DVDにして配布しました。これは新型コロナへの対応策ですが、今後もICTの導入が保育の幅を広げることもできると期待しています。
Q. 普段の保育でタブレットを導入するとかは?自然での遊びをバーチャルで体験?
ーー可能性はありますね。実写映像で見せながら、例えば動物園には行けないけど、ライオンってこうなんだよ、という活用もできます。絵本もそうですね。読み聞かせもオンラインでしたりとか。でもここは絶対人が関わらなくてはならないところは保育にはありますのでバランスがとても大切です。
Q. 割合としては、自然の遊びか、よりIT化しているとかありますか?
ーー保育はどうしても人が関わらなくてはならい部分ってとても多いです。特に遊びを中心とした保育や、子ども主体性云々となると、人との関わりが重要になってきます。保育は、人が関わらないといけないというところがすごく多いので。
Q. 原始的なことを体験させてくれるところが幼稚園なのでしょうか?
ーーそうですよね。原体験と言うか、リアリティ。子どもたちって、よりリアリティのある体験とか経験というのがすごく大事なんですよ。そこだけは実際に体験をしてもらう。バーチャルでも分かるけども、実際に芋掘りに行って土に触るのが大事。だからうちでは焼き芋体験までをさせています。よりリアリティのある体験が子ども達の原体験としてすごく大事なんですね。子どもたちは実際リアリティをより強く求めますから。
遊びに関しても、今はゲーム機など進化して楽しく遊べるけれども、「ああ、面白かった」で終わるのではなく、そこで子どもが「考える」というのが大事ですね。指導も子どもに考える時間を作る、子どもが思考できる時間をしっかり取ることが大事なんです。「あ、終わった」「やった」「楽しかった」ではなく、何か活動があったら、子どもがちゃんと考える、思考できる時間を取る、ということが保育の中でとても大事ですね。
最初からできなくてもいい
Q. 手段は変わっても、子どもが主体的に考えることを目的としてそこに向かっていくと。
ーー面白いですよね。すごく進んでいるところと、でも保育っていわゆる原始的なところがあるから、その落差というか、あるところは進んで、あるところはすごく原始的なところでやっていくしかない。その対比というかコントラストとかはずっとあると思いますね。
Q. 保育にはいろいろなアプローチがあるんですね。
ーーそうですね。本当に、保育ってクリエイティブなものだと思います。
Q. 新卒や若い先生方は大変なのではないですか?
ーー当園は「遊びを中心とした保育」として、「子ども主体の保育」に取り組んでいるため、「ああして、こうして」ということがないので、どうしても最初は一斉保育になりがちですが、若い先生方に伝えたいのは、はじめは一斉保育でも問題ないということです。「どうやればいいんだろう」と八方塞がりにならないように考え方を強制するのではなくて、活動の形態としての部分的な一斉活動はいいんじゃない?と。その部分的な一斉活動の中で結果的により主体的に子どもが取り組めば一斉もありなんじゃないの、というふうに、取り組みやすいようにしています。それをキャリアパスやキャリア研修でもおこなっています。
Q. ゴールとしては主体性の発揮だけども、プロセスとしては一斉保育でもいいと。
ーーそう。中身については一斉云々は問わずに、最終的には子ども達の主体性というところにつながれば、そこのプロセスは一斉が必ずしもダメというわけではないよと。まず入ってきた先生方については、その一斉指導の中でも部分的でもいいから子供が主体的に取り組めることを一個でもいいからやってみようよ、と呼びかけるようにしています。
Q. なるほど、少し肩の荷が下りる感じがしますね。
ーー最初から完璧にできることなんかないですよ。あとは、今年度から本格的に「チーム保育」制度も固めていますので、全部一人で「子どもの主体性を重視した保育」をしようなんて気負わなくても大丈夫です。
ーーわかりました。ありがとうございました。
(終わり)