障害の有無や国籍などに関わらず一緒に保育をしていく「インクルーシブ保育」。その後編では、日頃の保育での取り組み方について現場の先生方にお話ししていただきます。
【お話を伺った先生】
M先生 本園に入職8年目 以前は市外の幼稚園勤務
S先生 本園に入職6年目 以前は市外の保育園勤務
目次
こんなふうに働いています
ー現在の担当クラスとこれまでの経歴を教えてください
S先生 今は3歳未満児クラスを担当しています。3月までは年少(3歳児)クラスでした。元総社幼稚園に勤務する前は、市外の幼稚園で10年以上働いていました。結婚・出産を経て、元幼で働き始めました。
M先生 今は3歳以上児クラスの担当です。3月までは未満児クラスでした。元総社幼稚園に勤務する前は、市外の保育園にいて、S先生と同様、結婚・出産で一時退職して、元幼でまた働き始めました。
ー元幼で働いてみていかがですか。前の園と違う点など?
S先生 決定的に違うのは、昔は一斉保育だったということですね。当時は時代的にそれが主流でした。今日はこれをする、あれをすると決めて、その中で先生として働いていたわけですども、今は遊び中心の保育ということで、子供たちの様子や遊びを見て、そこから拾い上げて広がりがあるようにという保育をしているので、そこが決定的に違うかなと思います。
M先生 私は保育園でしたが、やはり決まった内容を繰り返していくのが保育のやり方でした。遊び中心の保育というのがここ元幼で初めての体験で、今が私の保育人生の中で一番楽しいですね。子どもと対応しながら主体的にいろいろなことをできるように考えていくのが楽しいです。自分の出産を機にいったん退職したのですが、やっぱり魅力的な世界なのでもう一度やってみたいと思って出会ったのがこの元幼でした。
ー保育のやり方も変わって戸惑いなどはありませんでしたか?
S・M先生 それがあまりなかったですね。
ーもともとこういう方法をやりたかったとか?
M先生 そうですね。自分がしたいなと思っていた保育だったので、今存分にやりたいことをやらせてもらえてるという感じです。もちろん子どもたちのために考えなくちゃいけないことはたくさん増えていて、毎回同じことをやってるわけではないので常に考えてるんですけど、それが面白いというか、大変な時もあるけど、そこがすごく魅力的なんですね。
S先生 私も、幼稚園勤務が長かったので最初はつい朝の会をして歌を歌って、昔の流れで「おはようございます」と出席をとって、ということをイメージしていましたが、ここに来て、カッチリこの時間でこの事をやる、というのではなく、1日の流れに沿った遊びから食事、という生活に徐々に慣れていきました。
インクルーシブ保育 現場で心掛けていること
ーインクルーシブ保育についてですが、日頃心掛けていること、取り組んでいることなどありますか。
S先生 前の幼稚園でも発達に特性のあるお子さんや、身体に障害のあるお子さんなどを担任したことがあります。元幼に来てからも同じ様に担任したことがあります。前の幼稚園にいた時は私自身若くて知識もなかったこともあってその接し方に随分迷ったことをすごく反省してるんですね。今は自分が母親になったことで変化もあったのかもしれませんが、その子が今安全に過ごすことも大事だけど、成長して行った先、この子は何に困るだろう、この子は何に壁を感じるだろうとか、お家の人も含めてどんな苦労があって、どんなふうにしていったら軽くなるだろうとか、その先も考えられる様になったんです。保育の中でも、その子も含めて、その子ありきのみんなというか、みんなの中でのその子、というように捉えようと思っていて、「その子がいるから」ではなくて、「その子も含めて」どうしようかなといつも心がけて保育に当たっています。
M先生 私もこれまで多くのお子さんと関わってきました。このインクルーシブ保育というものを考えると、障害の有無にかかわらず一人の人間としてちゃんとしっかりみんな平等に与えられた権利がありますので、特別にその子に対して何かを、っていう保育の見方はしていないですね。もちろん発達にすごく差があるので、きっと一斉保育だったら、差が大きく出てしまって難しくなるんですけど、こういう自由保育なので、個々を尊重して個々のペースで一人一人と向き合う。障害を持っていても持っていなくても同じ対応で、成長と共にゆっくりゆっくりその子はその子のペースで、こっちの子はこっちの子のペースで、と共存しながらやっています。
もちろん危ないこともたくさんあって、でもこの子にとったら危ない環境かもしれないけどこの子にとったらそうじゃない、だからそこから違う活動にする、とかではなくて同じ場で過ごせるように、その子に対してどういう配慮をしたらいいか、環境はこの方がいいなとか、一緒に過ごすための環境設定、構成、関わり、配慮というのを常に考えながらやってる感じですかね。もちろんそれには周りの職員や保護者との連携、情報の共有が必要で、そこはしっかり気をつけてやっています。
S先生 発達やどれくらいの障害があるかによってもだいぶ変わると思いますが、ただみんなの中でその子を見守っている、ということではなくて、その子がどれくらいだったら遊べるのか、友達と関われるのか、その辺りをちゃんと理解した上で保育を見るのが大事だと思っています。一人一人の発達はきちんと捉えていることが大前提の上で、共存や共生がしていけるんじゃないか、とそういうふうに思っています。
インクルーシブ保育 元幼の支援体制
ー支援体制としてはいかがですか。
S先生 市町村の巡回指導があって、アドバイスしていただくこともあります。あと、専門の療育施設に併用で通われているお子さんもいらっしゃるので、療育の先生と連携をとっています。
園の中でも職員会議などで、こういう状況なので理解してもらいたい、と共有しています。
ー連携はしっかり取れているのですね。
M先生 担任だけが抱え込まないようにしています。みな結構真面目なので担任だけが抱え込みがちなんですね。この子がうまくいかないのは私のせいみたいな。そう捉えてしまうと大変なので、みんなでチーム保育として対応しています。
ー看護師さんもいらっしゃいますね。
S先生 そうですね、看護師もうちの園は数名います。
M先生 もちろん専門外のことも多くあるんですけど、やっぱり保育士にはない知識、感覚というものを看護師は持っているのでお互い問題を共有することで看護師としての考え方はこう、保育士としてはこう、じゃあこうしようかみたいな感じで、それこそチーム保育で専門性を生かして子どもたちのために整えられるようになったのはすごく良かったなと思います。
S先生 とにかく心強いですね。現場の保育士の負担はすごく軽減されていると思います。
新人保育士さんに伝えたいこと
ーインクルーシブ保育に関して、課題はありますか?
M先生 これだけ職員がいるとそれぞれのスキルも違うし、職員がみな同じ感覚、同じ状況かというと各々違うと思うんですね。一斉保育と遊び中心の保育というところもまだまだそこの狭間で、どうしたらいいかわからないという職員もいるので、課題といいますか目標といいますか、みんなの感覚というものが同じというか近づけたらいいなと思います。そのための共有する時間やお互いの価値観、感覚を話して相手のことを吸収するような機会を作ったり、研修も含めて、お互い高めあっていけたらいいなと思っています。
ー新人保育士さんに伝えたいことはありますか。
S先生 昔、自分が若かった頃に比べたら、ずいぶん多様性が認められる社会になってきてると感じているので、そこで育ってきた新人さんの方がインクルーシブ保育に対して抵抗なく取り組めるのかな、とも思います。私たちの考えを植え付けちゃうと変に身構えてしまうかもしれないから、難しく考えないでみんながイキイキと生活したり遊んだりできる場を一緒に作る、という捉え方で共に楽しんでいけたらと思います。
M先生 新人さんから得るものもたくさんあります。「そうか。その発想なかったね」ということもありますし、またフレッシュな気持ちに戻してくれるます。そこも含めてチームでもっとお互い高めていけたらいいなと思います。私たちから教えるのではなく一緒に学んでいきましょう。
(終わり)